調律師のみなさま、こんにちは。
緊急事態宣言を受けて延期になってしまったセミナーの資料を一部、一般公開しようと思います。
セミナーの表題は『ユニゾン研究会 -第6部分音の唸りは訓練で聞こえるようになるか?-』です。
私がこれまで全国各地で行ってきたセミナーで出会った達人たちの証言と、私自身がその証言をもとに同じ手法を身につけるに至ったトレーニングの仕方についてお話する予定でした。
達人たちの調律したユニゾンは参加した調律師たちから多数票を集め、機械で計測した数字上でも優れた成績を収めています。
私がどのように調律をしているのかと質問したところ、返えってきたのは全く同じ答えでした。彼らは同じ師に教わったわけでもなく、これまで面識もないまま別の道を辿って同じ答えに至っています。
しかしながらその答えは調律学校で教えられる内容や業界で広く浸透した考えとは違っていました。
それは『特定の高次部分音の唸りを独立させて聴く』でした。
ここでは以下に4人の方の証言を掲載します。
セミナーではそのメリットをお話し、どうやったら聴こえるようになるかを実際のピアノを使い実践する予定です。
緊急事態宣言が解除されたら改めて日程をご案内いたします。
高木治夫氏 日本ピアノ調律師協会 四国支部会員
楽器堂
インタビュー動画
2017.10.23 倉敷でのセミナーのユニゾン実技で最多得票し、機械の測定でも0.0¢を叩き出した。その後質問に答えて。
Q. 普段、ユニゾンを調律するときにどのようなことを心がけていますか?
「硬い(高次部分音の)うなりを聴いています。倍音でチェックしています。」
2019.10.6 高知でのインタビューの内容から
Q. このような話を今まで他の調律師の方としたことはありますか?
「ないですね。輪に加わったことも自分から提供したこともないです。」
Q. 最初からそのように聴こえていましたか?
「いや、最初からじゃないですね。割り振りの延長だと思います。」
Q. 他の人もトレーニングによって聴こえるようになると思いますか?
「そりゃ、できますよ。僕ができるんだからできますよ。聴き癖をつけるということでしょうね。(聴き癖がつくまでは)色々な音を混ぜます。(和音を使って)色々な倍音を聴いてます。」
2019.11.20~12.4 メールでの質問に答えて。
Q. 高音に行くに従い倍音成分は弱くなり、基音のうなりも十分に速くなるので基音で聴いたほうが良くなりますよね?
「セクションの境目、E6(56)までは倍音で止めたいです。」
Q. 成分が強くても基音とオクターブ関係の2,4,8倍音は混じってしまい聴きにくいですよね?
「私は6,7倍音が良いかなと感じています。基音系は聴いてないです。ピアノによっては10倍音も少し使います。」
小田島智氏 日本ピアノ調律師協会 東北支部会員
小田島ピアノ調律所 https://www.piano.or.jp/teacher/tuner/detail/468690.html
インタビュー動画 https://youtu.be/9jS8PtgPpOg
2019.2.3 仙台でのセミナー前日、インタビューを収録後小田島氏が牛タン食べながら何気なく高次倍音を聴いてのユニゾン調律について語り始める。翌日、氏が以前に調律したピアノを実習に使うが非常にユニゾンがきれい。中音域で最もズレた音でもわずかに0.5¢差。
Q. え!普段からそうやって調律しているんですか?それが聴ける人はそう多くないと思いますよ。
「あれそうなの?みんなそうやって聴いているもんだと思ってた。」
Q. このような話を今まで他の調律師の方としたことはありますか?
「いや、ない。今初めてした。」
Q. 最初からそのように聴こえていましたか?
「いや、スタインウェイとか倍音のよく出る楽器をやるようになってから気がついた。」
2021.1.2 メールでの質問に答えて。
Q. 例えばヘ音記号のド(C3#28)のユニゾンを調律するとして第5(ミ)、第6(ソ)、第7(シ♭)あたりは使わないですか?
「あ~その辺の音は、その3つ良く聞きます、聞こえます。」
「(オクターブ調律)はインハーモニーシティのカーブにうまくのっかってるのかなーなんて思ってやってます。響きが豊かに、良く鳴り、良く伸びて、良く共鳴してくれるのが目的なので、、、」
倉田尚彦氏 日本ピアノ調律師協会 関東支部5班会員
クオルピア http://qualpia.com/
2019.10.29 高田馬場でのセミナーのユニゾン実技で最多得票し、機械の測定でもアップライトであるにもかかわらず0.1¢を叩き出した。セミナー終了後に講師席に詰め寄ってきて、
「私には正にあの画面(OverToneAnalizerの画面を指差しながら)のように聴こえているんです。今まで人に言っても信じてもらえなかった、また倉田の電波話が始まった、と言われていた。」
2021.1.2 メールでの質問に答えて。
Q. 最初からそのように聴こえていましたか?
「最初から多少は聴こえていました。調律学校で最初にユニゾン調律を習った時から、『高い倍音は整理しなくていいの?』と疑問に思っていました。卒業してからも、よりはっきり聞き取れるように、調律の際に出ているべき倍音の高さに当たる鍵盤(オクターブ上・オクターブ五度上・2オクターブ上・2オクターブ長三度上等)を鳴らして、イメージトレーニングしながら調律の練習をしました。」
Q. 聴き取りにくい時はどのようにしますか?
1.聴き取りやすくなるチューニングハンマーを使う。(チューニングハンマーによっては、チューニングピンに差し込んだだけで「吸い取り紙」のように倍音が響かなくなるものもあるので注意が必要です。)
2.チューニングピンが素直にストレスなく(ねじれや押し込まれることなく)弦の張力と釣り合っている場所を探す。(素直にふわっと倍音が乗っかるポイントを探す)
3.弦合わせや、サポート合わせなどがずれていると倍音がしっかり豊かに鳴りません。調整もしっかり確認する。
4.整音が原因で倍音が急減衰、あるいはまっすぐ伸びていない場合には整音を行う。
兵藤節子氏 日本ピアノ調律師協会 関東支部2班会員
2019.10.29 高田馬場でのセミナーのユニゾン実技で機械の測定でアップライトであるにもかかわらず0.1¢を叩き出した。
2020.1.13 日本ピアノ調律師協会関東支部の新年会にて。
Q. このような話を今まで他の調律師の方としたことはありますか?
「学校の先生(横浜ピアノ調律学院の青木博幸氏)にそのように(倍音を聴いてユニゾンを合わせるように)習いました。」
2021.1.2 メールでの質問に答えて。
Q. 最初から 聴こえていましたか?
「調律の勉強を始めた頃は唸りを消すことに必死で、音の成分として捉えるようになったのはしばらく後のことです。『聴こえていた』の意味合いが大分違っていたと思います。」
Q. どのようなきっかけで聴こえるようになりましたか?
「先生のご教示や研修での先輩方の助言、その他技術本などを参考に日々の調律で聴くように努めました。鶴田さんのチューナー講習会で音の構成を画像で見せていただけたのはとても良いきっかけでした。」
Q. 聴き取りにくい時はどのようにしますか?
「個々のピアノの状態にもよりますが、聴き取りにくい時には、聴くべき部分音を打鍵して音を確認しています。時間が許せばハンマーや弦の状態、整調を見直すことも試してみます。良く整備されたピアノは部分音も綺麗に聴こえることが多いと感じます。」